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3Dプリンターに導入、「究極のモノづくり」実現へ

=知られざるインクジェットプリンターの世界(下)=

2021年11月02日

最先端技術

企画室
帯川 崇

 インクジェット技術は、家庭用の紙印刷を越えて産業用でも使われ始めた。衣・食・住を見渡してみると、まず「衣」ではオリジナルデザインをプリントしたTシャツやスポーツウエアなどの作成が人気だ。少量多品種との相性がよいからだ。

 「食」についても、誕生日祝いのホールケーキに写真をプリントする際などに活用されている。カフェラテの表面に写真を描くラテアートでは、スマートフォンから写真データをパソコンに送信するだけ。その場で1分以内に完成するという。

 社会の縁の下でも活躍している。例えば、卵の殻に印刷された消費期限などの商品情報。これも人体に無害のインクでプリントされたものだ。おかげでパックから取り出して冷蔵庫内で保管する際、あるいはゆでた後でも個々の消費期限が分かる。

外壁材は「無地の白在庫」で対応可能

 「住」の分野では、戸建てや低層住宅向けの外壁材として使われている。これは、レンガや天然石を模した正方形のパネルをつなぎ合わせて作る部材。ローラーでは塗りにくい表面の凹凸にもインクジェットなら対処できる。細かな画像を表現可能なため、デザインの自由度の高さを活かした商品も自在に作れる。

 メーカーからすると、「(印刷前の)無地の白在庫」さえ抱えていれば、必要な時に必要な量だけを印刷すればよい。デジタルデータさえあれば少量注文にも対応できるから、「廃版商品」をなくすことができる。

 内装に目を向けると、壁紙やクッションが応用先として挙げられる。大量生産品とは一線を画す、オリジナルデザインを実現できるからだ。日本ではまだまだ無地の壁紙が多いが、もっと手軽に貼り替えられるようになると、個性的なデザインの壁紙が一気に普及するかもしれない。

 衣食住から離れると、自動車ボディーの装飾やバスの車体広告のためのラッピングフィルムが、インクジェットで印刷され始めた。しかも、フィルムを使わずボディーに直接印刷可能な技術も登場している。

 このほか、医薬品錠剤へのマーキング印刷は今や常識になった。普段目にすることのない産業用としては、電子回路配線基板やディスプレイの製造工程で特殊インクを特定位置に塗る手段として用いられるケースも出てきた。

3Dプリンターでも広がる活躍の場

 このように用途が急速に広がり始めたインクジェット技術。印刷で立体を作る3Dプリンターにも導入され、注目度が一段と高まっている。

 2010年代の「MAKERS革命」以降、「3Dプリンターで一軒家を建てた」といったニュースを耳にすることが増えた。素材を切ったり削ったりしながら部品を一つひとつ作り、それを組み立てる従来のモノづくり。これに対し、3Dプリンターはデジタルデータを使って一気にモノを作り上げるのだ。

 この3Dプリンターでは、下の4つの方式が主に採用されている。このうちインクジェット方式は、アクリル樹脂やポリプロピレン樹脂といったUV樹脂を紫外線で逐次固めながら、小型で精密な部品を作るのに適する。今後は、人工骨や細胞など人間一人ひとりに正確に適合させる必要のある医療分野への展開が期待されている。

主な3Dプリントの方式
図表(出所)「トコトンやさしい3Dプリンタの本」(佐野義幸・柳生浄勲・結石友宏・河島巌著、日刊工業新聞社、2014)を参考に筆者

未来生活はどう変わるのか

 ここまで、インクジェット並びにそれを導入した3Dプリンターの用途を見てきた。その潜在能力が発揮されると、未来のわれわれの生活がどう変わるかを想像してみた。

①学校では...

 校内で展示される地元の立体地図を、生徒が3Dプリンターで作成する。また、美術や技術といった実技科目では、3Dプリンターを使って作品を制作。当然、その過程ではデータ加工やコンピューター・プログラミング、色彩、素材化学、機械工学などの勉強が必要になり、3Dプリンターが総合学習の基礎になるかもしれない。

②病院では...

 歯や骨、臓器などを患者の症状に合わせて再生する「オーダーメイド型医療」も、3Dプリンターが実現してくれる。将来、病院で計測したデータを基に、人工臓器を即座に作成できるようになれば、患者の享受するメリットは計り知れないだろう。

③工場では...

 試作品作成のほか、廃版となり金型がもはや存在しない部品づくりでも、3Dプリンターは大活躍する。だから、古い蒸気機関車をいつまでも動かすことができる。また、デジタルデータさえ送れば、納品先に最も近い工場で製造することが可能になり、輸送コストの削減ひいては地球温暖化の抑制にも貢献する。グリーン社会の実現には欠かせない、基盤技術になっているはずだ。

 筆者が思いつくのはこんなところだが、3Dプリンターでの活用の領域はまだまだ広がるだろう。なぜなら、インクジェット技術は「必要なときに」「必要なモノを」「必要な場所で」「必要な量だけ」つくるという究極のモノづくりを実現するからだ。インクジェットは未来の可能性を限りなく広げてくれる。筆者はそう確信する。

写真未来の可能性を広げるインクジェット・3Dプリンター(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

帯川 崇

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